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日本は「ヒアルロン酸注射天国」? 大谷翔平選手も受けた“関節の潤滑剤”と日米の治療費

大谷翔平選手が受けたと報じられたORTHOVISC(オルソビスク)をきっかけに、ヒアルロン酸注射=viscosupplementation(粘弾性補充療法)の意味、米国の自費治療費、日本との違い、そして正確な関節内投与の重要性を解説します。

大谷翔平選手も受けた“関節の潤滑剤”――アメリカでは1クール約20万円、日本との違いは?

この記事のポイント

  • 大谷翔平選手が受けたと報じられたORTHOVISCは、ヒアルロン酸によるviscosupplementation(粘弾性補充療法)です。
  • 米国では、自費診療だとORTHOVISC 1クールが約19万〜24万円になる公開料金例があります。
  • 日本では保険診療で非常に低負担。ただし、薬剤を関節内へ正確に届けることは治療の大切な前提です。

ドジャースの大谷翔平選手が、左膝に「関節の潤滑剤のような注射」を受けたことが報じられました。日刊スポーツでは、その製剤としてORTHOVISC(オルソビスク)が紹介されています。

「関節の潤滑剤」と聞くと、何か特殊な治療のように感じるかもしれません。しかしORTHOVISCは、ヒアルロン酸製剤です。

つまり、日本の整形外科で変形性膝関節症の患者さんに日常的に行われている「ヒアルロン酸注射」と、同じ大きなカテゴリーに属する治療です。

ところが、アメリカの治療費を調べてみると、日本とはかなり事情が違います。米国のある整形外科が公開している自費料金から計算すると、ORTHOVISCによる1クールの治療は、初診を含めて約19万〜24万円になります。

一方、日本では同じカテゴリーのヒアルロン酸関節内注射を、健康保険を使って非常に少ない自己負担で受けることができます。

そう考えると、日本はある意味
「ヒアルロン酸注射天国」
なのかもしれません。

ただし――。安く受けられるからこそ、「とりあえず膝に打つ」で済ませてよい治療ではありません。

ヒアルロン酸は、関節液の働きを補うための薬剤です。その薬剤を適切な患者さんに選び、関節内へ正確に届けること。そこまで含めて、ヒアルロン酸注射の質だと私は考えています。

ヒアルロン酸注射は「viscosupplementation」

膝関節の中には「関節液」があります。関節液に含まれるヒアルロン酸は、関節液の粘りや弾力に関係し、関節を滑らかに動かしたり、荷重による衝撃を和らげたりする役割を担っています。

変形性膝関節症では、関節液の性状が変化し、その粘弾性が低下することがあります。そこで、ヒアルロン酸製剤を関節内に注射して、関節液の働きを補うという考え方があります。

このような製剤を英語で viscosupplement、治療そのものを viscosupplementation(粘弾性補充療法) と呼びます。

つまり、ヒアルロン酸注射は単なる「痛み止め注射」ではありません。関節液の潤滑作用やクッションとしての働きを補うことを目的とした治療です。

ただし、すり減った軟骨そのものを元通りに再生させる注射ではありません。また、関節内へ正確に注入されたとしても、すべての患者さんに同じような効果が得られるわけではありません。

大谷選手が受けたと報じられたORTHOVISCとは?

ORTHOVISCは、米国で使用されている高分子ヒアルロン酸製剤です。1本にヒアルロン酸30mg / 2mLが含まれています。

米国での適応は、保存的な非薬物治療やアセトアミノフェンなどで十分な改善が得られなかった変形性膝関節症による痛みです。

投与は、膝関節内に複数回行う製剤です。製品資料では3回・4回投与の臨床試験が示されています。

ORTHOVISCとSynvisc-Oneは同じ薬ではありません

アメリカには、ほかにも複数のviscosupplementがあります。よく知られているものの一つがSynvisc-One(シンビスク・ワン)です。

項目 ORTHOVISC Synvisc-One
構造 非架橋HA 架橋型 hylan G-F 20
1回量 30mg / 2mL 48mg / 6mL
投与方法 複数回投与 原則1回
特徴 高分子ヒアルロン酸 架橋による高い粘弾性

ORTHOVISCは複数回投与するタイプなので、日本で一般的に行われているヒアルロン酸反復注射と、治療スタイルとしては比較的近い製剤です。

アメリカでORTHOVISCを受けるといくら?

南カリフォルニアの整形外科医が公開している自費料金では、ORTHOVISC 30mgが194ドル、膝など大関節への注射手技が105ドルとされています。

つまり1回は、194ドル+105ドル=299ドルです。

2026年10月30日のドル円は、Wiseのミッドマーケットレートで1ドル=約157.8円。以下では約158円として概算します。

米国の自費料金例 日本円換算
ORTHOVISC 1回(薬剤+注射手技) 約4.7万円
3回+初診 約19.2万円
4回+初診 約23.9万円

同施設では新患診察料が321ドルなので、3回治療なら1,218ドル、4回治療なら1,517ドルです。

また、超音波ガイド下の大関節注射は154ドルと、通常の大関節注射105ドルより高く設定されています。治療内容によって費用はさらに増える可能性があります。

重要:これは「米国の患者さんは全員20万円払う」という意味ではありません。米国の一医療機関が公開している無保険・自費料金の一例です。民間保険やMedicare、年間免責額、自己負担率などによって、患者さんの実際の支払い額は大きく変わります。

では、日本では?

日本では、変形性膝関節症に対するヒアルロン酸関節内注射は保険診療として広く行われています。

日本の一般的なヒアルロン酸ナトリウム製剤は、変形性膝関節症に対して通常1週間ごとに連続5回関節腔内へ投与する用法が設定されています。

もちろん、実際の診療では診察料、関節注射の手技料、レントゲン、必要に応じた処方やリハビリなどが加わります。それでも3割負担の患者さんで、初診・膝のレントゲン・その後の再診とヒアルロン酸注射を複数回行った場合でも、自己負担は数千円規模に収まるケースがあります。

米国のORTHOVISCと日本の製剤は同一ではなく、さらに「米国の自費料金」と「日本の保険適用後の患者負担」を比べているため、厳密な同条件比較ではありません。

それでも患者さんの立場から見ると、米国では無保険なら1クール20万円前後になる公開料金例がある一方、日本では同じカテゴリーの治療を非常に低い自己負担で受けられる。この差は、日本の公的医療保険制度の特徴をよく表しています。

日本は「ヒアルロン酸注射天国」?

私は、ある意味ではそう言ってよいと思います。

日本では、ヒアルロン酸関節内注射という治療を、比較的少ない自己負担で受けることができます。これは患者さんにとって大きなメリットです。

しかし、「安いから毎週、とりあえず打っておけばよい」という話ではありません。

膝の痛みには、滑膜炎、半月板病変、骨髄病変、下肢アライメント、筋力低下など、さまざまな要素が関わっています。そのため、そもそもその患者さんにヒアルロン酸注射が適しているのかを判断することがまず重要です。

そして、ヒアルロン酸は「関節内」に入れる薬です

ここからが、私が最も伝えたいところです。

ヒアルロン酸は、viscosupplement――関節液の働きを補う薬です。

つまり、関節液が存在する「関節腔内」に薬剤を届けることが治療の大前提です。

「膝に針を刺した」ことと、「針先が関節内に入った」ことは同じではありません。

膝関節注射には複数の刺入方法があります。解剖学的ランドマークの選び方や刺入方向によって、関節内への到達率に差が出ることも知られています。

関節外へ薬剤が入れば、せっかくのviscosupplementでも、本来期待している作用を十分に発揮できない可能性があります。

ただし、「正確に打てば必ず効く」わけでもありません

ここは誤解してほしくないところです。

ヒアルロン酸を正確に関節内へ注射しても、すべての患者さんに効果が出るわけではありません。変形性膝関節症の病期、滑膜炎、半月板損傷、骨髄病変、アライメントなど、治療効果には多くの要素が関係します。

したがって、「ヒアルロン酸注射が効かなかった=関節外に打たれた」という意味ではありません。

一方で、本来関節内に投与する薬剤なのだから、まず関節内へ正確に届ける。これは治療効果を考える以前の、大切な前提です。

高価な薬を選ぶ前に、「ちゃんと打つ」

アメリカにはORTHOVISC、Synvisc-Oneなど、さまざまなviscosupplementがあります。日本にも複数のヒアルロン酸製剤があります。

製剤によって分子量、濃度、架橋の有無、投与量、投与回数などが異なります。「どの製剤がよいか」を議論することも大切です。

しかし、その前にもっと基本的な問題があります。

その薬剤は、本当に関節内に入っていますか?

20万円の薬だから効く。数百円の薬だから効かない。そんな単純な話ではありません。

何を打つか。
そして、誰に、どこへ、どう打つか。

その両方が大切です。

院長より

大谷翔平選手が受けたと報じられたORTHOVISC。

アメリカでは少し特別な治療に見えるかもしれませんが、その本質は、日本の整形外科でも日常的に行われているヒアルロン酸によるviscosupplementation(粘弾性補充療法)です。

日本では、この治療を健康保険によって比較的少ない自己負担で受けることができます。これは患者さんにとって、とても恵まれた環境です。

だからこそ、「いつもの注射だから、とりあえず打つ」ではなく、その一本を、必要な患者さんに、適切なタイミングで、正確に関節内へ届ける。

私は、そこまで含めてヒアルロン酸注射の「質」だと思っています。

何を打つかだけでなく、誰に、どこへ、どう打つか。

日本が「ヒアルロン酸注射天国」だからこそ、その一本一本の質にも目を向けたいと思います。

次回予告

「その膝注射、本当に関節内に入っていますか?」

膝関節注射は、刺入する場所や方法によって関節内への到達率がどの程度変わるのか。実際の研究データをもとに詳しく解説します。

主な参考資料

  1. 日刊スポーツ:大谷翔平選手の左膝治療に関する報道
  2. ORTHOVISC Instructions for Use
  3. Andrew M. Blecher, MD:Cash Pricing
  4. Wise:USD/JPY 2026年10月30日
  5. 厚生労働省:令和8年度診療報酬改定

※米国の価格は2026年10月に確認した一医療機関の公開自費料金の一例です。医療機関、地域、保険契約などによって実際の治療費・患者負担は大きく異なります。円換算は2026年10月30日の参考レート(1ドル約157.8円)をもとに概算しています。日本の費用も、保険負担割合、使用製剤、検査・診療内容などによって異なります。ORTHOVISCと日本国内で使用されるヒアルロン酸製剤は同一製剤ではありません。

※この記事は一般的な医学情報です。症状や治療法は患者さんごとに異なりますので、 個別の判断は診察を受けたうえで主治医とご相談ください。

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