膝の注射について、「ヒアルロン酸がよいのか」「PFC-FDはどうなのか」と聞かれることがあります。

もちろん、何を使うかは大切です。ただ、その前提として、私が見落としてはいけないと考えていることがあります。

その注射は、きちんと
関節内に入っているのか。

膝関節内注射は、膝に針を刺して薬液を入れれば、それで必ず成功するものではありません。実際に、注入位置を確認した研究では、刺入経路や術者によって正確性に差があることが示されています。[1][2]

せっかく治療を受けても、期待した効果が得られない。そのとき、成分だけでなく、目的の場所へ正しく投与できていたかという視点も忘れてはいけないと思います。

今回は、海外と日本の論文を紹介しながら、私が膝の注射で大切にしていることをお話しします。

研究 01Jacksonら / 2002年 / 造影剤による確認

造影剤で確認すると、
関節内に入っていない注射もあった

Jacksonらは、明らかな関節液の貯留がない膝への240回の注射を検討しました。同じ整形外科医が3種類の経路から注射し、造影剤とX線透視で注入位置を確認した研究です。[1]

初回の穿刺で、正確に関節内へ到達した割合
針を入れる経路 到達回数 正確性
膝の前外側から 57/80回 71%
膝の前内側から 60/80回 75%
膝蓋骨の外側中央から 74/80回 93%

Jacksonら[1]のデータから作成。割合は原著表記に合わせて丸めています。これは初回穿刺の正確性であり、治療の有効率ではありません。

注目したいのは、同じ医師が行っても、針を入れる経路によって結果が異なったという点です。今回の条件では外側中央からの正確性が高かったものの、痛みなどまで含めて最良の経路だと示した研究ではありません。[1]

「膝に注射したこと」と「関節内に正確に注射できたこと」は、同じではない。この研究は、その違いを数字で示しています。

研究 02Curtissら / 2011年 / Mayo Clinic

経験の違いで、
正確性は55%と100%に分かれた

米国Mayo Clinicの研究グループは、経験の異なる2人の医師が20の献体膝に注射する研究を行いました。着色した液体ラテックスを注入し、解剖によって、どこに入ったかを確認しています。[2]

触診を目印として、同じ上外側の経路から注射した場合、全量を関節内へ注入できた割合は次のとおりでした。

エコーを使わない条件での比較:全量が関節内に入った割合
術者 正確性
経験の浅い医師 55%
経験豊富な医師 100%

Curtissら[2]のデータから作成。20膝・2人の術者による献体研究で、すべての医師に当てはまる数字ではありません。同研究のエコーガイド下では、両者とも100%でした。

同じ経路でも、術者によって結果が違う。注射は薬液を選ぶだけでなく、的確に針を進める技術を伴う医療行為なのだと、私はこの結果を受け止めています。

この研究では「全量が関節内」「一部が関節内」「全く関節内に入っていない」を区別しています。55%の裏返しを「残り45%は全く入らなかった」と読むことはできません。[2]

研究 03Wadaら / 2018年 / 日本の臨床研究

日本の研究でも、
注射時の工夫で80%から93%へ

日本のWadaらは、関節液の貯留がない変形性膝関節症150膝を対象に、上外側から注射する際の条件を比較しました。太ももの前の筋肉である四頭筋をリラックスさせる方法と、力を入れて収縮させる方法を、各75膝で検討しています。[3]

注射時の四頭筋の状態と、関節内注入の正確性
注射時の条件 対象 正確性
四頭筋を
リラックスさせる
75膝 80%
四頭筋に力を入れる
(等尺性収縮)
75膝 93%群間比較 p=0.0287

Wadaら[3]のデータから作成。針を進める際にエコーガイドは使わず、注入の成否確認に用いています。両群の差は統計学的にも有意でした。

筋肉を収縮させることで、注入先となる膝蓋上嚢の空間が広がったことも確認されています。薬液を選ぶだけでなく、正確に注射しやすい条件を整えることにも意味があると考えさせられる研究です。[3]

PFC-FDでも、
正確な関節内注射が基本です

PFC-FDについても、この考え方は変わりません。

2023年のOhtsuruらの研究では、変形性膝関節症の患者312人を登録し、PFC-FDを関節内に1回投与した後の経過を12か月まで調べ、症状や機能の改善を報告しています。ただし、比較対照群のない研究であり、他の治療より優れていると証明したものではありません。[4]

そして、この研究は関節内に投与する治療を評価したものです。関節外に注入しても同じ成績になると示した研究ではありません。[4]

せっかくの治療だからこそ、
成分への期待だけでなく、
正確に投与する技術を大切にしたい。

本来、関節内に投与すべきものが関節外にとどまっていた場合、期待する効果が得られない一因になる可能性があります。何を使うかだけを考えて、どこへ、どのように投与するかをおろそかにしてはいけないと私は考えています。

もちろん、今回の論文は「関節外なら必ず無効」と証明したものではありません。言えるのは、関節内投与で得られた成績を、関節外投与にそのまま当てはめることはできないということです。

2025年の総説Humphries・Baria・Fitzpatrickら

注射後の痛みや腫れにも、
投与部位が関係する可能性

注射の技術を考えるうえでは、治療効果だけでなく、注射後の痛みや腫れにも目を向けたいと思います。

2025年のHumphriesらの総説は、ヒアルロン酸注射後に生じる強い痛み・腫れ・発赤・動かしにくさなどの局所反応(SALR)について、原因や予防・対応を整理しています。[5]

著者らは、ヒアルロン酸が関節腔ではなく、滑膜や脂肪体などの組織内に注入されることが、痛みや炎症反応の誘因になり得ると指摘しています。ここでいう滑膜への注入は、滑膜に囲まれた空間ではなく、滑膜組織そのものの内部への注入です。[5]

一方で、ヒアルロン酸に対する免疫反応も原因として挙げられています。注射後に痛みが出たからといって、すべてが誤注入というわけではありません。[5]

この指摘を踏まえても、私は目的の関節内へ正確に注射し、余計な痛みや負担をできるだけ避けることを大切にしたいと考えています。

※既存研究と著者らの臨床経験をまとめた総説で、誤注入によるSALRの発症率を直接測定した研究ではありません。予防策として、刺入経路の選択や超音波ガイドの活用にも言及しています。[5]

関節内に入れば、
それでよいとも考えていません

私がもう一つ大切にしているのは、針が通る経路と、注射を受ける際の痛みです。

日々の診療で意識していること

私が刺入部の目印にしているのは、膝のお皿の外側にある、筋肉・腱の付着部と靱帯の境目にあたるコーナーです。

腱や靱帯の太い線維束への不要な穿刺をなるべく避けながら、関節内へ的確に針を進めることを意識しています。

これは、私が日々の診療で実践している手技上の工夫です。紹介した論文で、この経路の優越性が証明されたという意味ではなく、無痛を保証するものでもありません。

正確に関節内へ注射すること。そして、できるだけ痛みや組織への負担を少なくすること。その両方に気を配りたいと思っています。

「効かなかった」だけで、
注射が外れていたとは限りません

ここは、誤解のないようにお伝えしたい点です。正確に注射できたことと、十分な症状改善が得られたことは別の評価です。注入精度を調べた数字を、治療の有効率に読み替えることはできません。[1][2][3]

逆に、効果が乏しかったという結果だけから、以前に受けた注射が関節内に入っていなかったと決めつけることもできません。

だからこそ私は、痛みの原因を見極め、その方に合う治療を選び、正確に実施し、その後の変化まで確認する。注射を、その一連の診療として考えています。

この記事でお伝えしたいこと

何を注射するか。
そして、的確に注射できるか。

膝の注射は、治療の名前や成分だけでは決まりません。国内外の研究からも、関節内へ正確に注射することは、決して当たり前ではないと分かります。[1][2][3]

適切な治療を選び、的確に関節内へ注射する。
そして、できるだけ余計な痛みや負担を減らす。

ヒアルロン酸でも、PFC-FDでも、私はこの基本を大切にしています。

参考文献

  1. Jackson DW, Evans NA, Thomas BM. Accuracy of needle placement into the intra-articular space of the knee. J Bone Joint Surg Am. 2002;84(9):1522–1527.
    DOI: 10.2106/00004623-200209000-00003 · 原著情報(PubMed)
  2. Curtiss HM, Finnoff JT, Peck E, Hollman J, Muir J, Smith J. Accuracy of ultrasound-guided and palpation-guided knee injections by an experienced and less-experienced injector using a superolateral approach: a cadaveric study. PM R. 2011;3(6):507–515.
    DOI: 10.1016/j.pmrj.2011.02.020 · 原著情報(PubMed)
  3. Wada M, Fujii T, Inagaki Y, Nagano T, Tanaka Y. Isometric Contraction of the Quadriceps Improves the Accuracy of Intra-Articular Injections into the Knee Joint via the Superolateral Approach. JBJS Open Access. 2018;3(4):e0003.
    DOI: 10.2106/JBJS.OA.18.00003 · 原著情報(PubMed)
  4. Ohtsuru T, Otsuji M, Nakanishi J, et al. Freeze-dried noncoagulating platelet-derived factor concentrate is a safe and effective treatment for early knee osteoarthritis. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2023;31(11):4716–4723.
    DOI: 10.1007/s00167-023-07414-y · 原著情報(PubMed)
  5. Humphries D, Baria M, Fitzpatrick J. Severe acute localized reactions after intra-articular hyaluronic acid injections: a narrative review and physician’s guide to incidence, prevention, and management of these adverse reactions. Journal of Cartilage & Joint Preservation. 2025;5(1):100187.
    DOI: 10.1016/j.jcjp.2024.100187 · 論文情報(DOI) · 全文(メルボルン大学・PDF)
    ヒアルロン酸注射後の局所反応に関するナラティブレビュー。PFC-FDの関節外投与の効果を検証した研究ではありません。著者FitzpatrickはBioventusとの雇用関係を利益相反として申告しています。

本記事で紹介した研究結果は、それぞれの対象・方法・条件で得られたもので、当院の成績を示すものではありません。PFC-FDの研究結果も、製法や投与条件の異なる治療にそのまま当てはまるとは限りません。本文中の手技への考え方は、院長の診療方針として記載しています。